"VOGUE 2月号(2016)" ギョンス&キム・ソヒョン インタビュー訳


●                 去年の夏、少年は初めて会う少女の手をギュっと握りしめる。少女は少年の手を振りはらえなかった。顔が赤くなり握った手にはしっとりと汗をかいているようだ。きまり悪く見上げた空は眩しいくらいに青くて、わけもなく地面をトントン蹴ると砂埃が舞い上がる。空気は知らんぷりで少年少女をぎこちなくさせた。映画<純情>の初シーンのことではない。<純情>に出演する二人の俳優、ド・ギョンスとキム・ソヒョンの想像を含めた現実での初対面の話である。イ・ウニ監督は撮影初日に有無を言わさず"手を繋げ"と指示を出し、ドギョンスとキムソヒョンはカメラがまわっていようがいまいが繋いだ手を離してはいけなかった。二人は口をそろえて"恥ずかしかった!"と、その瞬間を振り返った。当時23歳のドギョンス、17歳のキムソヒョンの<純情>はこうして始まったのだ。


映画<純情>は、切ない初恋と5人の友人による友情の話だ。40歳の2015年現在、17歳だった1991年、過去の物語が繰り広げられる。我々が思い描く初恋の少女"スオク"はキム・ソヒョンが、黙々とスオクの傍を守る真っ直ぐな少年"ボムシル"はド・ギョンスが演じた。過去を呼び起こすことになるのは、ラジオの生放送中に届いた一通の手紙だ。馴染みあるようなおぼろげな気分になる設定。初恋をテーマにした映画やドラマが過去と現在を行き来しながらその時その時代を映し出すのは多分、叶うことのない初恋のプロパティによるものなのかもしれない。自分の中に広がる感情にさえこの感情の正体は何なのか、どう表現するべきなのか、青りんごのように未熟であるから。ウニ監督は"甘酸っぱさ"があり、ほろ苦くもある17歳の純情を現実の俳優の中から探した。映画にハマる俳優を探すよりも俳優の姿をキャラクターに溶け込ませようとした。30代が制服を着てもおかしくない"童顔の世界"だが、彼らにとって純情とはすでに過去の感情。笑うと口元にハートが浮かび上がるド・ギョンスとキム・ソヒョンはボムシルとスオクそのものであった。



二人も<純情>を受け入れるのに迷いはなかった。キム・ソヒョンは台本を読んでしばらく涙を流した。その時代を生きるどころか生まれてもいないのに、一度感情が入ると止めることはできない。「胸がドキドキしました。すごく綺麗ですごく儚くて。とても素敵だという気持ちしかなかったです。」ド・ギョンスにはボムシルが心の中にスッと入ってきたという。「何の情報もなしに台本を読みました。最初のフィーリングでボムシルというキャラクターを演じてみたいと思い、その場でやりますと言いました。」"純情"という単語から感じられる漠然とした純粋さも"再び"感じてみたかったという。「高校生の時からおどけた性格なので映画のような純粋さはほぼ無かったように思います。純情を失っているということです(笑)」


ド・ギョンスが失ったという17歳の思い出を探しに映画は全羅南道、高興郡、得粮島に場所を移す。ソウルから400km走ったあと船に乗り海を渡って辿り着くことができる島である。地図上ではひとつの"点"で示される場所だ。砂浜と田畑が美しく、2015年の日々を潤す文明などは無い。スーパーひとつ無い島の最高の楽しみはケータリングカーだった。物理的な距離は俳優たちを高興で暮らしているかのようにさせた。"全羅南道の小さな海辺の町、5人の幼馴染によるドラマ"という映画設定のように、5人の同年代の俳優たちはこうして友達になっていった。「本当に田舎の少年たちがしている遊びをしながら過ごしました。海で泳いだり釣りもして。もちろんお酒も飲みました。」泳げなかったド・ギョンスは毎日少しずつバシャバシャしながら泳ぎを覚えていき水が好きになったという。小さい頃すこしだけ高興に住んでいたことがあるという彼はぼんやりと、高興という場所がくれたぬくもりも思い出した。「一番した事といえば"お喋り"です。電灯が無いので夜になると真っ暗で、雨が降れば外に出ることもできない。男3人で公民館の一室を使っていたのですが本当に色んな話をしました。演技の話やありふれた男同士の会話、下ネタなど…本音を隠さず全部吐き出したとおもいます。」毎日就寝時間は夜中だった。昼に撮影をして晩ごはんを食べ部屋に戻ると出てこないし、夜に撮影があれば夜中まで撮ってまた部屋に戻り話をしたという。韓国らしくスマホはサクサクと繋がるが、いつからか不思議なことにスマホを見ようとする人はいなくなった。演技練習の雰囲気をリードしていたのはド・ギョンスであり、空き時間担当はイ・ダウィだった。キム・ソヒョンにとってダウィはギャグコンサートそのものだったという。「ダウィオッパは本当に明るい人で退屈とは無縁でした。曲をかけると10時間は雰囲気を持続してくれる人なんですよ?」


合宿生活は方言を使う演技にも見事な効果を発揮した。俳優陣5人は、まるで語学研修に行った人みたいに"ソウル弁禁止"というルールを決めて従った。もう少しネイティブ学習が必要だと感じたキム・ソヒョンは村の銭湯に行きじっとおばちゃん達のお喋りに耳を傾けた。「映画撮影が行われているという情報が村に広がって、飲み物をくださったり沢山喋りかけてくれたりしました。銭湯という空間が少し恥ずかしかったので私から積極的に話しかけることはできませんでしたが(笑)」今でも日常生活の中で方言がポンポン飛び出すというド・ギョンスは全羅道の方言が持っている美学に感心したという。「サンドルがギプスをして登場する場面で、ある住民の方が『痛そう』じゃなく『さぞかし心苦しく見えるなぁ』と言ったんですよ。わぁ…こんな言い方もあるんだなぁと様々な表現に驚きました。」



ボムシル、スオク、キルジャ、サンドル、ケドクが真の友達となり、友達同士で交わされるエネルギーそのものが演技となった。ウニ監督は俳優陣にそれぞれ違うディレクションを出し、その中で起こる自然なリアクションをスクリーンに込めたという。二人の感情が重要なシーンでは、実際にスオクが可愛く見える服装をボムシルに聞いて衣装を選んだこともある。こういった小さな選択が俳優陣に現実の出来事であるかのように感じさせ、映画の中では瞬間の忠実な感情として映っている。台本読み合わせのときに冷や汗をかいたというド・ギョンス、前作で演技に対する悩みが多かったというキム・ソヒョンも<純情>では演技の負担が少なかったという。俳優をキャラクターそのものに作り上げたウニ監督の試みは実に適切だったわけである。


ロングヘアー、大きな瞳、丸くて小さな顔、か細い手足。年が明けて18歳になったキム・ソヒョンは、国民の初恋という系譜を継ぐルックスを完璧に装備した。10歳のとき<伝説の故郷 - わが子をつれて>でデビューしてからというもの、毎年かかさずブラウン管に姿を現していた国民の妹が国民の初恋として見え始めたのは<会いたい>からだ。当時、ヨ・ジングとのキスシーンに心を揺さぶられたのは大人たちの方だった。しかし"人形少女"から"漫画のヒロイン"へと成長したキム・ソヒョンは、ルックスの中に自分を閉じ込める役柄には関心を示さなかった。<君の声が聞こえる><怪しい家政婦><Who Are You - 学校2015>とキム・ソヒョンの丸い目には常に欠乏が存在していた。私たちが過ごしてきたあの時代がピンク色の光だけではなかったという事を、チクチクする何かを飲み込んでこそ通過することができるという事を、キム・ソヒョンは作品で見せようとした。だからなのか。<純情>のスオクは初恋のイメージを追いかけてはいない。「監督に、スオクはどんな服を着ていると思う?と聞かれました。私は花柄のワンピースと答えました。監督は初恋が思い浮かぶような服は着せないようにすると言っていました。周りの人に初恋についてのイメージが何なのかを聞いて、すべて排除していったそうです。スオクは典型的な初恋の女の子ではないです。すごく強い一面もある子です。大変なことでもそれを障害物として考えないような子です。」真っ白な肌はむしろ化粧をして覆った。キム・ソヒョンはスオクの力強い内面が気に入ったという。高校に進学する代わりにホームスクーリングの道を選び、頻繁に会えない中学時代の友達を思い浮かべるという設定も気に入った。何といっても、キム・ソヒョンは俳優5人の中で唯一役と年齢が同じだった。17歳の夏休みを、まさに高興で過ごすことになったのだ。「まだ初恋の経験がありません。今回の映画を撮りながらスオクを通して初めて初恋というものの感情を感じたように思います。私にとって本当に意味のある映画です。」撮影が終わり、こうしてキム・ソヒョンの初恋も幕を閉じた。



惜しくもド・ギョンスにとってスオクは初恋ではない。ボムシルを演じている間、ド・ギョンスが思い浮かべていたのは高校3年生の時に経験した初恋だ。「ボムシルと僕、似ているところをあげるなら男らしい一面です。真っ直ぐで一途な性格も似ています。初恋をしていたとき僕はどんな行動をみせていたのか。どういう風に相手を気遣ってあげていたのかを思い出しながらボムシルという人物に迫っていきました。片思いでもなかったのに今では重く悲しい記憶として残っています。別れるときの辛さが大きかったせいでしょうか。」シナリオ上ボムシルはド・ギョンスに会って少しの変化をみせる。「ボムシルは男らしくて純粋なんだけど、演じながらどう表現すればいいのか。少しバカっぽい一面?"ドジっ子"になったように思います。マヌケで恥ずかしくなったといいますか。監督は喜んでました(笑)」<大丈夫、愛だ>のノ・ヒギョン脚本家は、真っ白いキャンパスのようなド・ギョンスに会って『台本読み合わせの時に暗いイメージで読んでみてというと、あまりにも暗かったので少し明るいキャラクターへと変更した。』と話していたことがある。人気アイドルEXOのメンバーだが演技は一度も習ったことがないからだろうか。ド・ギョンスは人物になんの先入観も持たずに近づく。キム・ソヒョンも現場でド・ギョンスを見て新鮮な刺激を受けたと話した。「正劇を続けてきた私と違ってギョンスオッパはとても自然体でした。本当に本心で演技をされていました。心から純粋に演技をされるので、それが私の心にも届いたし私も頭じゃなくて心で演技することができたのだと思います。本当にぴったり合いました。」


ド・ギョンスが<カート>に出演したとき、EXOのメンバーの顔を識別することができない人たちが"なりたい新人俳優"として選んだ。これまで生きてきて怒鳴ったことがないという彼は、劣敗感でいっぱいだったテヨンをグッと押し込み演じたという。ド・ギョンスの人生で最初となるオーディションを担当したプ・ジヨン監督は『"おぉ、できる子だな"と感じた。こんな感じでやってみてと言うとすぐに表現できる子だった。演技は頭じゃなくて本能的にするものだがそれをやってのけたのだ。』とキャスティングした理由を語った。<純情>のなかでその本能がド・ギョンスに襲いかかることもあったという。「スオクのお父さんに怒りをぶつけるシーンがあります。でもTAKE2から体に異変が起こりました。本当に怒った時みたいに目が大きくガッと開いて体が固まってしまったのです。監督に"なんだか体が変です"と伝え、10分ほど揉みほぐしてようやく元に戻りました。」幼いころから映画を見ることが大好きだったおかげで身についたのは没頭力だけではないだろう。傷ついた少年だった<大丈夫、愛だ>、不気味な演技を見せた<君を憶えてる>など、ド・ギョンスは人物の内情を自分の精神かのように観察してみる。「僕は記憶力が本当に悪いです。でも無意識のうちに残っていた感情が演技をする場面で助けになっているんじゃないかなと思います。」ド・ギョンスは現場にいるとき何かあれば尋ねアドバイスをもらい再び悩みを持ってくる。最近、演技について最も頼りにしているのはチョ・インソンだ。「シナリオ、キャラクター、設定など難しいことがあればいつもインソンヒョンに連絡をします。僕が思うキャラクター、インソンヒョンからみたキャラクター、監督の言うキャラクター、この中で答えを探せるように手伝ってくれます。共通分母が多く、言葉で言わなくても分かり合えるような間柄です。」



ド・ギョンスの次回作は<兄>だ。"有名な柔道選手"を演じる。おかげで最近の変化といえばガッチリとした体格だ。「上半身裸になるシーンがあるというのでたくさん筋トレをしました。小さな体格が変わっていくのを僕自身も感じていました。もちろん、それでも華奢です。でもここでのポイントは!結局映画のなかで僕の身体は公開されないということです。腹筋トレーニングもすごく頑張ったので残念な気もするけど、これはこれで良かったのかもしれません。完成には程遠かったので。ハハハッ。本物の柔道選手たちと一緒に登場するシーンがあるのですが、スクリーンでは素早く画面が切り替わって流れます。ハハハッ。」


ド・ギョンスが肩幅を育てている間、キム・ソヒョンは去年<純情>を含む五つの作品を撮った。一人二役の演技で2015年を華麗に締めくくった<Who Are You - 学校2015>、新しい役柄に迷いを露にした<ページ・ターナー>、普段からロールモデルとして挙げていたソン・イェジンの幼少期を演じた<徳恵翁主>、様々なジャンルの変化をみせたウェブドラマ<悪夢先生>。「どの作品に取り組むときでも、できる事と出来ない事を正確に判断しようとします。それから出来ない事は一つずつ改善しようと心掛けています。」子役俳優から始まり、粘り強さがもたらしてくれたのだろう感性をキム・ソヒョンは自ら警戒してきた。現場で監督に演技のせいで怒られたという話をするも、大きな力になったという言葉は忘れなかった。去年の年末、2年間担当していた<ショー!音楽中心>のMCキャリアを基に、演技大賞授賞式のMCにも乗り出した。「今後も任せていただけるなら!最善を尽くします。ヘヘッ」


必ず来てしまう夏休み最終日のように、高興での3ヶ月間の撮影も終わりを迎えた。ソウルに戻ったド・ギョンスは相変わらず地球上で一番忙しいアイドルEXOで、キム・ソヒョンは次回作の準備に余念がない。愛と友情はいつも我々を成長させてくれる。いま分かっていることをこの先も覚えておくことができる能力は誰だって持っていない。不器用だった過去も我々の背中を前へと強く押してくれるだろう。もう一歩だけ前へ進んでみろと。別々にインタビューを受けた二人の俳優が"将来"について聞かせてくれた言葉は、不思議なことに全く同じであった。"素敵な人になる"。青くほんのり赤みを帯びていたあの夏の日、少年少女へ何を残したのだろうか。





〔 訳:xiu0348

-宇宙からやって来たひとたちのお言葉記録-

-宇宙からやって来たひとたちのお言葉記録-

宇宙からやって来たひとたちのお言葉記録